【小さなお話】ぼくは「おと」

ぼくは「おと」

猫のぬいぐるみ。

「ぼく」って言ってるからどうやら男の子らしい。

ぼくは、とある人の相棒として迎え入れられた。

眠っていた倉庫から取り出され、梱包されてトラックに乗せられてこの家に運ばれてきた。

最初にぼくを抱き上げたその人は、本物みたいだとニコニコしながら言った。

なんせぼくは本物の猫と同じぐらいの体重でポーズも自由自在にとれるからね。

一日目は色んなポーズをとらされて、ちょっと疲れたよ。

二日目になると、その人は名前をどうしようか?って考え始めていたよ。

ぼくの定位置は決まっていて、大体いつもピアノの上に寝そべってる。

その人はピアノが大好きで、毎日のようにピアノを弾いているよ。

音楽が大好きだから、音楽に関係する名前がいいなって思っていたみたい。

色々悩んでいたけれど、やっぱりシンプルな名前がいいよねってことで、平仮名二文字で「おと」に決まったよ。

最初はもっとお洒落な名前がいいなって思ったけれど、呼ばれているうちに段々気に入ってきた。

その人がピアノを弾いている時、ぼくはいつもピアノの上に寝そべってる。

音ってすごいんだよ。

耳で聴こえるだけじゃなくて、体中にビリビリ伝わってくる。 

もう大迫力だよ。

ぼくはピアノは弾けないけれど、まるでピアノが弾けるような気分を味わえる。

一緒に過ごすようになってしばらくした頃

その人がぼくの歌を考えてくれていることがわかった。  

ぼくへのメッセージソングかな?って思っていたけれど、違うみたい。

ぼくからのメッセージソングだった。

ぼくは「おと」だから、色んな人の「音」と交わって色んな音楽を奏でてほしいんだって。

その人がそう言ってたよ。

どういうことかな?

ぼくは歌えないし楽器も弾けないんだけれど。

ぼくがいるだけで、ぼくだけの「音」を出しているってことなのかな?

もしそうだとしたら、音楽っていつでもどこにでもあるんだね。

お互いの出す音を一緒に楽しむのが音楽。

そう考えたらぼくにも音楽ができるんだ。

何だかワクワクしてきたなぁ。

ぼくね、いつもピアノの音をたくさん聴いているから音には気持ちがあるって知ってるんだ。

嬉しい音、怖い音、悲しい音、楽しい音、何かうまく言葉にできない音。

その時の気分で好きな音は変わるけれど、でもどの音も素敵なんだよね。

だからぼくという「音」ときみという「音」が出会ったら、素敵な音が響くはずだよ。

その人がつくってくれたぼくの曲には、そんなメッセージが込められている。

だからもしもぼくと出会ったら、一緒に音楽しようね。 

いつもの場所で見守っているから、いつでも遊びにきてね。