これはある日の夢のお話。
幼い少女の私が、当時お気に入りだったチェック柄のスカートを履いて登場していた。
一人遊びが好きだった私は、いつものようにお絵描き帳にキラキラした大きな瞳のドレスを着たお姫様の絵を描いていた。
男の子を描くのは苦手だから王子様はいつも描けなかった。
私が描くお姫様はいつもワンパターン。
だからいつも同じお姫様。
そのうちにお姫様と仲良くなれた。
お姫様も一人だから話し相手が欲しかったのかもしれない。
ある日突然、お姫様がこう言った。
「ねぇ、魔法の言葉を教えてあげる、誰でも使える魔法」
「それはね、ごめんなさいとありがとう」
「この魔法はね、誰でも使えるんだけど
使うためのちょっとしたコツがあるの」
「それは素直な自分でいること、そしてそんな素直な自分を相手に見せる勇気」
「素直さと勇気、それさえあれば誰でも使えて効果抜群」
私はお姫様に質問した。
「その魔法にはどんな効果があるの?」
お姫様は教えてくれた。
「ごめんなさいには凍りついてしまった心を溶かす効果が、ありがとうには心を温める効果があるのよ」
「溶かして温めてあげれば、弱った心も元気になる」
「元気になると、自分は愛の塊だったんだ…と思い出すことができるからごめんなさいとありがとうを言い合った者たちは幸せになれるの」
「こんな簡単なことなんだけど、なぜだか難しいって感じる人も多いみたい」
ありがとうとごめんなさいの効果を知った私は簡単だけれど、すごい秘密を知ってしまったことで得をした気分になって、こう言った。
「不思議だね、何でだろう?
難しい勉強は出来るのに、こんなに簡単な魔法を使えない人間って、あべこべな存在だね」
賢いことが言えたと内心ちょっと得意げな気分でいた私にお姫様は続けてこう言った。
「人間のお勉強はちょっと特殊なのよね、
でも、あべこべだってことに気がつくと世界もひっくり返って違う世界に見えるようになるの」
「私はね、鏡の世界の住人だからそれが当たり前なの」
「でもあなたの世界でも同じことができる」
「私は鏡の中にいるから鏡に写る自分の姿を見ることはできない」
「でもあなたの世界では鏡に写る自分の姿が見えるでしょ?」
「鏡に写る自分に向かって、心からのごめんなさいとありがとうを言ってみて」
「その時にどんな表情をしている?どんな気持ちがする?」
「あなたの言葉に本当に真心がこもっていればまず一番最初にあなた自身が効果を実感するはずよ」
「ちょっと勇気を出して大切な人にも同じことをしてあげればいいの」
「その時はあなたが相手の鏡になる」
「だからあなたの世界でも、私と同じ世界がつくれるの、あなたのちからでね」
そこまで言い終わるとお姫様はにっこりと微笑んだ。
私はお姫様に「大切なことを教えてくれてありがとう」とにっこり微笑みながら伝えた。
最後に気にかかることがあったから、一つ質問した。
「お姫様は自分の姿が見えない鏡の世界に一人ぼっちでいて寂しくないの?」
「私、王子様の絵が描けないからごめんなさい」
お姫様は笑いながらこう答えた。
「私は一人ぼっちじゃないわ…それにお姫様はあなたとお話する時の仮の姿」
「本当の私はどんな姿がわからないし、わからなくても私は私よ」
「同じ世界の住人はたくさんいるから心配しないで」
「いつも同じエネルギーを発しているあなたのことが偶然目に留まったの」
「この魔法はほんと使えるからあなたが鏡になってあなたの世界にも広めてね」
私はお姫様が一人ぼっちじゃないとわかって安心した。
そして「わかった、ありがとう」と言ってまたにっこりと微笑んだ。
次の瞬間、目が覚めた。
目が覚めた私は、鏡を見なくてもわかった。
笑顔の私がそこにいる。
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